日本一周への憧憬

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「日本をゆっくり走ってみたよ」という、漫画を読んだ。2巻で完結。36歳独身の漫画家が連載作品が終了して時間が空いたので日本一周バイクの旅に出るというお話。愛車はスズキのジェベル。日本一周の旅をする動機が、4年前に仲良くなったものの故郷に帰ってしまった憧れの女の子に再開するためというもので、いかにも愚直で不器用な男という印象に好感が持てた。タフな男になるために日本一周して、その女の子の住む宇都宮で告白するという過程を描いた実話の旅日記である。
以前から「いつかはオートバイで日本一周」とぼんやり思っていたけれど、この漫画を読んで、より日本一周への想いが増したように感じる。

日本一周に挑戦するにあたって、一番の障壁となるのはやはり「仕事」ではないだろうか。日本一周となると1週間や2週間程度の休暇では厳しい。2~3か月くらいはみたいところだ。当然そんなに会社を休めるはずがない。他の会社はどうだか分からないけれど、少なくとも僕の勤めているところではそうだ。どう考えたって厳しい。2か月どころか、2週間だって怪しい。となると、日本一周を達成するためには今の仕事を辞めることが前提となる。僕は再就職に有利な経験やスキルや資格を持っているわけでもないし、年齢だけで採用してもらえるほど若くもない。つまり、日本一周に挑戦するということは、今手にしている経済的基盤を失うことを意味している。生きていくためには言うまでもなくお金がかかるのだ。

では、定年になるまで待つのかというとそれこそ日本一周なんて生涯できないのではないか、という気がする。定年が70歳、あるいは75歳にまで延長されると囁かれている昨今、その年齢に達してからオートバイで日本一周の旅に出るというのはあまりに非現実的だ。そこまで長生きできるかどうかも分からないし、長生きできたとしても今のように健康体であるとも限りない。

ただ、幸いと言っていいのかわからないけれど、僕には扶養家族がいないので、家族がいる人に比べるとまだ挑戦しやすい環境にあるのかもしれない。もし養うべき家族がいようものならオートバイで日本一周など口に出すことすら憚られるだろう。「仕事まで辞めて日本一周なんかして何の意味があるの?」おそらくそんな風なことを言われて終わりだ。事故におけるリスクを考えると日本一周どころか、オートバイ自体降りてくれとまで言われかねない。守るべき人間がいる人間の宿命だろう。僕には守るべき人がいない。故に失うものもない。仕事くらいだ。僕が日本一周に挑戦したとして、結果どんな事態を招いたとしても困るのは僕自身だけだ。基本的にそういう身分でしか挑戦できない代物だろう。この漫画の主人公、吉本浩二先生のように。

自分でも馬鹿げたことを考えていると思う。なぜ日本一周に憧れているのだろうか。主人公のように日本一周をすることによる精神的な成長のようなものを欲しているわけじゃないけど、たった一度しかない有限な人生、日本に住んでいながら、日本の景色のほとんどを知らずに死んでいくのは、もったいない気がする。あるいは胸を張って「これを達成した」と言えるものが欲しいのかもしれない。きっと誰もが経験することではないだろうから。だから、もし本当に日本一周を達成できたとしたら、僕の人生、それでもう概ね満足という感はある。たとえその先に冷遇が待ち受けていたとしても。

ただいずれにせよ今は時季が悪い。寒い。寒すぎる。それに仕事も今すぐ辞めるというわけにもいかない。他にもバイクで日本一周に関する書籍があるようなので、いろいろ情報を集めながら妄想を膨らませたりして、本当に決心するその日まで心の拠り所にしていこうと思う。